勝訴の福岡生存権裁判、最高裁が差し戻し判決
高齢者の生活保護基準2割引き下げを違法とした福岡高裁判決の上告審で最高裁は4月2日、高裁判決を破棄、裁判やり直しを命ずる判決を下した。原告、弁護団、支援者は同日、衆院第一議員会館多目的ホールで報告集会を開き、「再び勝利すべく全力で闘う」とする宣言(別項)を決議した。社会民主党の福島瑞穂党首、日本共産党の高橋千鶴子参院議員、民主党の古賀敬章衆院議員(秘書)などが激励にかけつけた。
生存権裁判は現在、全国9都府県で争われているが、福岡事件は2010年6月14日(朝日茂さんの命日)、福岡高裁(古賀寛裁判長)で勝訴している。その判決は、「生活保護は単なる国の恩恵ではなく,法的権利である。保護基準改定も法56条の不利益変更禁止の原則が適用されるところ、社会保障審議会専門委員会による中間取りまとめからわずか4日後に生活扶助を19・8%減額しており、不利益等が具体的に検討された形跡がない。したがって,裁量権の逸脱又は濫用として、正当な理由のない保護基準の不利益変更に当たり、法56条に反し違法となる」としていた。
これに対し最高裁は、完璧な比較論と裁量論を展開した。比較論では、70歳以上の消費支出額は60歳代より少ないという厚労省主張をそっくり採用している。しかし、なぜ80歳、90歳の超高齢を含む70歳以上との比較か、なぜ無職の60歳代との比較か、平均値では10,7万円を超えるのになぜ下位10%の6万円との比較か、小学生でも疑問を抱くような比較論を堂々と展開している。
一方、裁量論では厚生労働大臣の「専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権」を展開、「これと異なる見解に立つ福岡高裁の判断には法令違反がある」とし、福岡高裁の憲法感覚に立脚した判断は「是認することができない」とした。
下級審は最高裁の命令に強く縛られるが、原告たちは小さくとも勝訴への望みを託し、老いた体を鞭打ち、やり直し裁判に臨む。なお、須藤正彦裁判官は、「慎重な配慮が望まれる」とする意見を述べている。
福岡生存権裁判最高裁判決について
福岡生存権裁判原告団
福岡生存権裁判弁護団
北九州生存権裁判を支える会
生存権裁判を支援する全国連絡会
本日、北九州市在住の76歳から94歳の生活保護受給者35名が北九州市を被告として、老齢加算の減額・廃止を内容とする保護変更決定処分の取消しを求めた裁判について、最高裁判所第二小法廷は、原告の訴えを認めた福岡高等裁判所の判決を破棄し、裁判を同裁判所に差戻すとの判決を言い渡した。
老齢加算は70歳以上の生活保護受給者に対し、加齢に伴う特有の生活需要を満たすために1960年から支給されてきたものであるが、厚生労働大臣は2004年度から減額を開始し2006年度に全廃した。その結果、70歳以上の生活保護受給者は単身世帯で月額9万0670円の生活扶助費から1万7930円もの給付を奪われることとなった。
老齢加算の廃止から約6年が経過した現在、原告らは慢性疾患が累積し自由が利かなくなってきた身体のつらさを抱え、健康状態の悪化や社会的に孤立していくことを恐れながらも、厳しい住環境の中での暑さ寒さに耐え、食事・人付き合い・入浴などといったささやかな欲求をひたすら押し殺して生きている。苦労を共にした妻の納骨ができずに無念の思いで日々を暮らす原告もいる。そんな原告らがこの裁判を闘っているのは、いくら生活保護を受けているとはいえ、人としての誇りも保てない、ただ生かされているだけの生活を当然のように強いる国の態度への人間としての深い憤りからである。
生活保護を受けることが権利であることを確認し、厚生労働大臣の老齢加算廃止におけるあまりに杜撰な決定過程を権利の観点から批判し違法とした福岡高等裁判所の判決は原告らに一人の人間として生き抜くことへの希望を与えた。
それにとどまらず、生活保護制度が最低賃金、社会保障給付、保険料・税等の負担など他の諸制度や諸施策と連動していることを考えると、保護基準の不利益変更に対し、権利の観点から厳格かつ適正な決定過程を求めた福岡高等裁判所の判決は貧困と格差の問題で苦しんでいる多くの人々に勇気を与えた。
しかし、本日言い渡された判決は、福岡高等裁判所が示した行政への厳格な姿勢を放棄して行政へ追随するだけのものであって到底容認できない。
なお、須藤裁判官が激変緩和措置を生存権の保障の内容であると認め、高齢者の尊厳が全うされる最低限度の生活確保の必要性について言及していることについては評価したい。
私たち福岡訴訟の原告・弁護団、支える会は、差戻審において老齢加算減額・廃止により憲法・生活保護法で認められた健康で文化的な最低限度の生活が破壊されたことをさらに明らかにすることにより再び勝利すべく、各地で闘う生存権裁判の原告・弁護団・支援する会とともに全力で闘うことをここに宣言する。